■注意■

ネタばれしますので作品を見た後に読む事をお勧めします

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーストシップ -帰還への想い-

あとがき

既にお分かりの通りこの物語の国名は偽名ではありますが…実際の世界情勢を考慮して作られています
アルミア>アメリカ合衆国
ルシア>ロシア連邦
チェスタ>チェチェン共和国
そしてロシアとチェチェンの紛争という歴史的いきさつ
今は無きソビエト連邦とアメリカ合衆国との間に起きた1962年のキューバ危機
宇宙開発と軍事利用
先進国と途上国の経済格差
貧困であるが故の内戦の蔓延
口先だけ&自己満足の世界平和
己の利益第一主義
そして相変わらずの平和ボケした日本人
このような現実を物語りのベースにし、且つ私の趣味と妄想を交えて生み出されました

アンドレイの素性:
両親(生みの親)はロシア人。北オセチア共和国のとある町の生まれである
この辺りはチェチェン共和国と程近く内戦による国土の消耗は酷い有様
断続的に続く紛争に巻き込まれアンドレイの家族は犠牲となった
しかし奇跡的に一命を取り留めたアンドレイ(本名セルゲーエフ)は皮肉にも
チェチェン人の女性に助けられた
まだ乳飲み子のアンドレイにはそれまでのいきさつの記憶は無く
自分は育ててくれたチェチェン人の母の息子であり自分自身もチェチェン人である事を誇りとしていた
そして数年後の2002年、モスクワで劇場占拠事件が起きる
皆様の記憶にもまだ新しいあの事件によりロシアはチェチェン共和国に進軍しテロリスト撲滅を命題に
町を破壊した
哀れかなアンドレイはここでも悲劇に巻き込まれる
自分を育ててくれたチェチェンの母を失い再び孤児となった(アンドレイ5歳)

もともとロシア人の血が流れるアンドレイは当然白人であり外見的にはロシア人として政府に保護された
ちなみにチェチェン人とはアラブ系の民族とは限らない。ロシア系の顔立ちをしていながら自らはチェチェン人と名乗るものも多くいるし、このチェチェン共和国近辺出身のロシア人がチェチェン人というレッテルを貼られ迫害を受けるケースもある

アンドレイはロシア国内の幼年軍事学校にて戦争孤児として手厚く教育を受ける
このような施設ではチェチェン紛争の孤児が多く集められロシア兵として教育される
だが、今度の場合アンドレイの心には深い傷が残った
自身にとって育ての親との死別は子供心に決して消えない憎しみを刻む事となる
そしてチェチェン人として目覚め始めていたアイデンティティーもかさなり
アンドレイの心の中に闇の炎が決して消える事無く燃えつづけるのであった

アンドレイは勉強をした、元々学問には才があったらしく学校や政府が提供した教育を驚異的にこなして行く
そんな彼が学問を通して今の世界の問題について考えるようになった
自分の母を殺したのはロシア連邦である、憎むべきは大国ロシア…
だが世界を見渡せば敵はロシアだけではない
むしろ敵はロシア軍ではなく石油資源に群がり利権を得ようとする先進国
己の手を汚さず平和主義のお面を被りながら貧しい国に紛争を輸出する利益主義者
祖国チェチェンを蝕み愛する母を殺した敵はそこにいる…

トップエリートとして空軍に入りそこから宇宙産業〜宇宙飛行士と歩むにそう時間は掛からなかった
何故なら彼には大きな野望があったからだ
憎しみを晴らすために、祖国の為に、母の為に、俺は生きる
そして必ず復讐を成し遂げる
20XX年、アンドレイ、ヴィクトル号の船員として宇宙に飛び立った
決して人には話せない重要な使命を持って

 

ナミ救助後の記者会見:
パシャ!パシャ!
沢山のフラッシュライトに迎えられてナミ・ジェファーソン飛行士は記者会見のテーブルの中央に座った
隣にはルシア宇宙開発機構ヴォリス指令長官が座る
ヴォリスはマイクを指で叩き音声を確認する
「えー、お静かに、お静かに…
では、これよりこの度の救出ミッションの報告、及びナミジェファーソン一等宇宙飛行士救助の会見を行います
なお、つい先ほど保護されたばかりのジェファーソン飛行士の体調を考慮して
この記者会見は短時間で終了します事をお知らせします
何分彼女は非常に過酷な事故を経験したばかりですので…
記者の皆様は特別な配慮の上業務に望みます様お願い申し上げます

では、まず彼女の現在の健康状態ですが…
我が国の医師団が検査した所、多少の脱水症状は有るものの命に別状は無いとの事です
着陸時にかなりの衝撃があったはずですが特に目立った外傷は有りません
全ては我が国が開発製造した大気圏脱出シャトルの性能が如何に高いかを物語るでしょう…
我が国は何よりも人命を重視する事を第一に考え
宇宙飛行士の生命を守る事に細心の注意を払っております
このような言い方は不謹慎かもしれませんが…ナミ飛行士は我々ルシアの船にたどり着けたのは
極めて幸運であった、これがもし別の国の船であればこのような事態にはならなかったともいえるでしょう
世界各国の記者の方々に申したいのは、これが運による結果ではなく我が国の宇宙開発への安全性重視の結果と
捉らえて頂きたい」

「すみません!ジェファーソン飛行士に質問をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああ、そうですね、この会見の主役は彼女であります。では、これから彼女への質問を始めます」
「最初は…RTRの記者さん…、どうぞ」 (RTR:ロシア国営放送局)
「ナミ・ジェファーソン飛行士、無事帰還おめでとうございます
貴方が宇宙空間を漂流している間地上の人々は皆大変な心配をしておりました
現在の東西の軍事的緊張が張り詰める中での出来事で世界中が夜も眠れない時を過ごしました
そんな中ナミ飛行士は宇宙でどのような事を考えておりましたか?」
ナミは静かに答えた
「あ、ありがとうございます、そして世界中の皆様にご心配をおかけして申し訳ございません
宇宙を漂流している間は…何も……と言うか…気が動転してしまいよく覚えていません
ただ、無我夢中に救助船を探していました
まさか地上でこんな大騒ぎになっていたとは…ルシアの救助ヘリの中で初めて知らされたのです」

「地上基地との交信ではその事を知らされなかったのですか?」
ちょっと考え戸惑うナミの横でヴォリスが身を乗り出して口を挟んだ
「それについては私が答えましょう。
確かに我ルシアの基地でも非常に緊張した状態でしたが…今の彼女にそれを伝えた所で無用な不安を与えるだけであると判断しました
その為我々は如何に彼女を無事助けるべきかに重点を置いて対応したのです
確かに今ルシアとアルミアは冷戦状態が続いていますが…
今回の事件によって人と人が助け合う事の素晴らしさを皆が実感した事と思います

一部の報道では我が国の衛星が原因と報道されていますが…現在そのような事実は確認できていません
我が国の独自の調査では廃棄処理されコントロール不能となった古い衛星との接触事故と見ています
皆様方には改めて言っておきますが…我が国は宇宙開発を平和目的のみに限定しております
誤報等に惑われません様にお気をつけ下さい
何しろ彼女を助け、東西の軍事的緊張を払ったのは誰でもない我々ルシアなのですから」

次の記者が立ち上がる
「ヴォリス長官に質問です。当初ヴィクトル号の乗組員の死体は二人のみと報告を受けていましたが…
実際には三人とも地上に戻られたそうですね…
やはりそちらでも情報が錯綜していたのでしょうか…?」
「あ、それについては私が答えましょう…」
皆ナミに注目した
「確かに一人、イリーナ飛行士の死体は宇宙に流れてしまい確保できませんでした
ですが、無線機が故障し地上との交信が出来なくなった後に窓の外で浮遊している彼女を発見しました
彼女の宇宙服にからまっていたワイヤーがソーラーパネルのポールに引っかかっていたのです
私は急いで彼女を船内に引き込み脱出シャトルに乗せました
どの国であれ、人は…皆地上に帰りたいと願うものですから…」

ヴォリスが口をはさむ
「残念ながら大気圏突入の際船内で火災が発生してしまいましたが…遺体は確保しました
三人の飛行士は人々の為に殉じた英雄として国を挙げて弔う所存です」

「では、記者会見はこの辺で終了いたします、ジェファーソン飛行士の健康を考え彼女には退席して頂きます
後は、私と今回シャトルの設計開発を行ったブラインスター社の広報担当者が質問に答えましょう」

女性のスタッフにうながされ席を立つナミ
「あ、最後にもう一つだけお願いします」
「彼女は疲れています、ご遠慮ください」
記者は引き下がらない
「私、アルミアCNNの記者です、一つだけ…」
アルミア…その言葉にヴォリスも認めざるを得なくなるが、眉間にしわを寄せ注意深く聞く

「ナミ・ジェファーソン飛行士、無事帰還おめでとうございます
アルミアの記者を代表して心よりお祝いの言葉を申し上げます」

「こちらこそ、ありがとうございます、アルミア合衆国の皆様には大変心配をお掛けしました、すみません」
頭を下げ、軽く笑うナミ

それに答え記者は質問を続けた
「体調が回復された際には一日でも早くアルミアにもどり元気な姿を人々の前に見せて下さい
今回の事故について色々と難しい取調べがあると思いますが…早く帰国できる事を心より願っています」
記者はヴォリスをちらりと見て席に座る

ヴォリスはその記者をにらみつける
が…その程度の嫌味で済んで内心ほっとした

だが…
立ち止まるナミ…

会場がどよめく
うつむくナミ
女性スタッフに促されても足を動かさない

ナミは顔を上げて言った
「実は…ルシア、アルミアの皆様に…そして世界の皆様に一つ言い忘れた事があります」

ヴォリスの顔が青ざめる
記者たちが一斉にナミに注目する
会場は静まり返る

「実は…三人の乗組員の内一人の方…セルゲーエフさん…」

ヴォリスの口元が引きつる
要らん言を喋るのではないかと気が気でなくなる

「彼は…手紙を持っていました
ミイラ化した彼は手紙を持っていたのです
残念ながらその手紙は帰還の火災で焼失してしまいましたが…
死ぬ間際に彼が家族に綴ったメッセージが書かれていました

……私は、直ぐに帰ることが出来ません
セルゲーエフさんの遺族の方々にその手紙の…ほんの数行の言葉ですが…伝えなくてはなりません
帰国はその後です」

「その手紙には…何と…」

「それは…遺族の方…マリアさんに直接伝えます」


ヴォリスが我慢ならぬとしゃしゃり出る
「あ〜、皆さん記者会見はこれにて終了いたします。ご苦労様でした」
厳つい男達に囲まれナミはドアの向こうに消えていった
途切れる事の無いフラッシュの明かり
記者会見は慌しく終了した

 

 

エピローグ:

ルシアのとある田舎町
黒塗りの高級車が2台走ってくる
そして一軒の家の前に止まった
辺りは林に囲まれとてものどかな家である
政府の高官とナミが車から降りてくる
もう一台の車からはサングラスを掛けたこわ持ての男
ボディーガード達は玄関に留まりナミと高官は家に入っていく

しばらくの時が流れる
鳥の鳴き声が賑やかに緑あふれる林に響き渡る
日差しは明るく心地よい
地上にいては気付かない当たり前の…素晴らしい世界
人が生きれる世界
愛があふれる世界

ドアが開き子供を連れた女性に見送られナミは車に乗る
そしてその高級車とは似合わぬ田舎町を走り去っていった

セルゲーエフは他の飛行士同様、国家の英雄として埋葬された
この度の事件でルシア及び宇宙開発事業のイメージが上がった事に水を指したくなかったのであろう
世間が注目するこの事件で…身内の恥をさらす必要は無い
むしろ最後まで家族を思いつづけた素晴らしいルシア軍人の象徴として利用するべきである
政府の打算の結果…セルゲーエフ・スパイ説は闇に葬り去られた
それにより彼の遺族にも手厚い年金が支給される事となった



ナミは帰国後しばらくは一躍時の人となった
アルミアでも日本でも彼女はもてはやされた
が、その熱も冷め止まぬ中…ナミは姿を消した
NASUを退社し持てる全ての財産と共に彼女は姿を消した

それからしばらくして、ルシア南方のチェスタ共和国にナミに似た人物がいたとの噂が流れた
その人物は東洋人女性で己の力と汗にてそこの人々の為に尽くしていたそうだ
そして現地の風土病に罹り悲しむ人々に囲まれながら若くしてこの世を去ったと言う
それが彼女であったかどうかは定かではない…

ナミの行方は今も分からない
ヴィクトル号で起きた悲しき男の叫び声は
真空の宇宙空間にかき消されたままである

世界は…
今日も変わらず動いている

ゴーストシップ -帰還への想い-

 

 

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